2014年9月7日日曜日

スペインの旅 アシエンダ・ベナスーサ(エルブジ ホテル) その1

数年前、まだエル・ブジが閉店する前の話だが、スペイン滞在に合わせて、
エル・ブジの予約を試みたことがあった。

当然のように予約は取れず、スペイン語の達者な知人に頼んで丁重な文章を
書いてもらい、FAXを送ってみたが、これまた丁重に断られてしまった。


ご存知のようにエル・ブジは当時、世界一予約の取れないレストラン故、
さすがに簡単に行けるとは思っていなかったが、一度はモダン・スパニッシュの
元祖を味わってみたかった。


有名になると、賛否両論が当然のように湧き起ってくるが、
本家を味わわずに二番煎じ、三番煎じ(失礼!)を食べただけでは
評価することはできない。


そこで、ふとエル・ブジがホテルを経営していたことを思い出した。

「アシエンダ・ベナスーサ」



ちょうど、セビーリャに少し滞在する予定だったので、そこからそのホテルのある
サン・ルーカル・ラ・マヨールは近い。

予約を試みると、あっさりOK!

ちょっと拍子抜けしたが、早速、予定に組み込んだ。


アシエンダとは荘園のこと。

このホテルは、イスラム教徒占領時代にアラブ人により建設された10世紀の
小農園に端を発する。

13世紀にキリスト教徒によるレコンキスタ(国土回復運動)の中で奪回に成功した後、
様々な貴族がオーナーとなりながら、19世紀にはスペインでも最も古いもののひとつ
である闘牛飼育場がおかれた。


現在は、その歴史と文化の価値を閉じ込めた建物と、アッパークラスのゲストの要求を
満たす設備との調和が見事に共生する壮麗なホテルとなっている。


メインダイニングは、「ラ・アルケリア」



ご存知のように、エル・ブジはその年のメニューは翌年以降二度と出さないのだが、
このレストランでは、過去のメニューが特別に食べることができるのだ。


指揮をとるのは、長年フェラン・アドリアをセカンドとして支えてきたシェフだから間違いない。


ここのステイはちょっと贅沢をしようと、セビーリャの滞在先までホテルのハイヤーを呼んだ。


さすが、大きなベンツが到着!

ゆったりとした後部座席に乗り込む。

ホテルまで30分弱の間、のどかな田園風景を眺めていた。


門をくぐると、派手さは無いが、歴史の重みを感じさせる厳かな雰囲気の建物にたどり着いた。


チェックインしてベルボーイに部屋へ案内してもらう。


部屋に入ると、落ち着いた少し薄暗い感じで、重厚な調度品と天蓋付きのベッドが目に入った。

バスタブなどもレトロなもので統一されていて、タイムスリップしたような錯覚に陥る。




しばらく部屋でくつろぎ、ホテル内を散策。

そうこうしている間にお楽しみの夕食の時間がやってきた。

ちょっと気取った格好に着替え、レストランに向かう。



テーブルに案内されると、まずは見事に先制パンチにやられた。

水のメニューが透明のガラスの筒に入れられて渡されるのだが、
その筒がキンキンに冷やしてあるのだ。


何気なくサラッと手渡されて、ヒヤッとする様にゲストは驚き、
一気にエル・ブジ・ワールドに引き込まれる。


こういった憎い演出をすると、次に何が出てくるのか否応なく期待値が上がってしまう。

次の攻撃に自信があるからこそできることなのだろう。


水だけでも世界各地の銘水が揃えてあり、20種類ほどあった。


そして、まずは食前酒。



二層に分かれたスタイルのサングリア。

下に香り付けされたワイン、上に桃のピュレが注がれていた。

口の中で完成するというコンセプト。

美味しい!


それと共に出されたオリーブ。

これも普通のオリーブではなく、やわらかい玉の中に、凝縮されたオリーブのエキスが詰まっていて、口の中に入れて恐る恐る割ってみると、一気に濃いオリーブの風味が広がっていく。


全部で20皿以上の料理が出たが、サーブする度に詳細な説明をしてくれる。


特徴的なのは、ほとんどフォークやナイフを使わない料理が多いことと、
古典的な料理がベースになっていること。

しかし、あくまでベースであり、一旦、完全に分解して再構築されている。

なので、元の料理を知らないと、面白さが半減してしまう。





そういう意味では、ある程度経験値のあるグルマンか料理人の方が
真価がわかるような気がする。


もちろん料理はおいしいのだが、味だけで言うと、決してベストとは言い難い。

食事というよりも、エンターテイメントとして捉えた方が楽しめるのだ。


生まれ育った土地の古典的なものを解体し、再構築する発想と表現力。

それにたどり着いたフェラン・アドリア氏の視点。

それを楽しめたら、ここは相当面白いだろう。


続く

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